わたしの「超ふつう」#04

峰田昭浩 × 奥谷孝司 対談

「米富繊維と考える、“手抜きできないふつう”」

峰田 昭浩
米富繊維株式会社

山形県山辺町にて1952年創業したニットメーカー。自社内にニットテキスタイル開発部門を持ち、OEM / ODM、自社ブランドの企画・製造・販売を行う。長年培ってきた編み地開発と生産技術を背景に、国内外のブランドから厚い信頼を集めている。
米富繊維株式会社https://www.yonetomi.co.jp/
Yonetomi ONLINE STOREhttps://www.yonetomistore.jp/

山形で出会った、ニットの「優れたふつう」

奥谷孝司(以下、奥谷): Super Normalでは、世の中にたくさんあるのに、あまり意識されていない「優れたふつう」を見つけて、ちゃんと伝えていきたいと思っています。
MNMMと一緒に「日常を整えるニット」をつくることになって、改めて日本で服をつくること、日本でニットを編むことについて考えるようになりました。

Makuake「日常を整えるニット」


僕らがやろうとしていることは、大きな売上をつくるとか、たくさん商品を並べるということではないんです。もちろん売れないと続かないですが、それ以上に、ちゃんとした作り手と組んで、ちゃんとしたものをつくる。その姿勢を示したいという気持ちがありました。
その中で米富繊維と出会いました。まずは、米富繊維の始まりについて教えていただけますか。

峰田昭浩俊朗氏(以下、峰田): 米富繊維は1952年創業ですが、その前から家内工業的にものづくりをしていました。創業者の大江良一が、近所の方々と編み物をして、それを販売するところから始まっています。

当時は、今のように物流も整っていません。北海道まで商品を持っていって、売れたら山形から送ってもらう。そうやって現地に滞在しながら商いをしていたと聞いています。

奥谷: つくることと売ることが、最初からつながっていたんですね。

峰田:そうですね。面白いのは、米富繊維はかなり早い時期からサマーニットにも取り組んでいたことです。今でこそ、コットンや麻のニットは普通にありますが、当時は夏に着られるニット用の素材自体がなかなかありませんでした。
サマーニットに取り組んだ理由の一つは、雇用を守るためだったと聞いています。冬物だけを半年つくって、あとは農家の仕事に戻ってください、では人を確保できない。年間を通して正社員として働いてもらうには、年間を通して生産できるものが必要だったんです。

奥谷:そこがすごくいい話だなと思いました。売れるから夏のニットをつくったというより、働く人たちの暮らしを考えた結果として、夏のニットが必要だったんですね。

峰田:はい。地域で続けていくために、ものづくりのあり方を考えていたんだと思います。

『ファッションは生活なり』を読んで

奥谷:米富繊維の創業者である大江良一さんの自伝『ファッションは生活なり』をお借りして読ませていただきました。

読んでいて思ったのは、大江さんは経営者としても、地域のリーダーとしても、すごく先を見ていた方なんだなということです。
特に印象に残ったのが「簡素生活」という考え方でした。ご自身の暮らしはとても質素にされている。一方で会社の設備投資には思い切ってお金を使う。手横編み機から自動機へ移行したり、トヨタソーイングシステムを取り入れたり。
ただ節約する人ではなくて、使うべきところにはちゃんと使う人だったんだなと感じました。

峰田:そうですね。創業者の考え方は今の会社にも残っていると思います。

奥谷:本の中で「良品を、いい環境で、楽しく明るく作りたかった」という趣旨の言葉が出てきますよね。僕はこれがとても米富繊維らしいと思いました。
良い商品をつくるという話だけではなくて、良い環境で、働く人たちが前向きにつくれることまで含めて考えている。製品の話でもあるし組織の話でもある。

峰田:米富繊維はもともと人を育てることを大事にしてきた会社だと思います。創業者も、労を共にした社員に報いるために、技術を持った人が力を発揮できる場をつくってきた。そういう歴史があります。

奥谷:「良い社員に恵まれた」という話も出てきますが、僕は単に運が良かったということではないと思いました。良い人が育つ環境をつくっていたから、結果として良い人が集まって残っていったんじゃないかと。
また、サマーニットの話も面白かったです。一度編んだものをほどいた糸、いわゆる編み返し糸ですよね。普通なら失敗とか無駄に見えるものから独特のしゃり感を見つけて、夏のニットの可能性につなげていく。

峰田:当時はアクリル繊維を使って試験場などとも組みながら開発していったと聞いています。そこから素材メーカーや産地の同業者も巻き込んで、サマーニットが広がっていったんです。

奥谷:それも大江さんらしいですよね。自分の会社だけで抱え込むのではなくて、産地全体を巻き込んでいく。自分たちだけが勝てばいいというより、山形のニット産地全体を強くしていく感じがある。
本のタイトルでもある「ファッションは生活なり」という言葉も、すごく考えさせられました。ファッションは特別な日のためのものではなくて、毎日の生活そのものなんだと。
今回のニットも、まさにそこにつながると思っています。何か特別に目立つ服ではなくて、日常の中で自然に着てもらえるものをつくりたい。その時に米富繊維にお願いできているのは、本当にありがたいことだと思いました。

「開発をやめたら、会社が死ぬ」

奥谷:工場を見せていただいて強く感じたのは、米富繊維は単なるニット工場ではなく、編み地を考え続ける会社なんだということでした。

峰田:米富繊維には、50年ほど前から編み地だけを徹底して開発する部署があります。普通の量産業務とは別に、ひたすら編み地をつくる。今でこそ人数は限られていますが、多い時には10人くらいの規模でやっていた時期もあります。
ただ、開発はすぐにお金を生むわけではありません。原料も必要ですし、人件費もかかる。過去には、会社の経費を見直す中で「開発をやめるべきではないか」という話が出たこともあったそうです。
でも、その時に会長が言ったと聞いています。
「それをやめたら会社が死ぬぞ」と。

奥谷:すごい言葉ですね。

峰田:そこをやめなかったことが、今の米富繊維につながっていると思います。COOHEMのような自社ブランドも、長年の編み地開発の蓄積がなければ生まれていなかったかもしれません。

奥谷:技術の蓄積というより技術の“土壌”がある感じがします。

峰田:米富繊維は、最新の機械をどんどん入れて新しいことをやってきた会社ではありません。むしろ普段使っている機械でどこまでできるかを追求してきた会社です。
お客さまから「最新の機械で編んでいるんですか」と聞かれるようなものでも、実は20年前の機械で編んでいることがあります。機械の機能を100%引き出さないまま買い替えるのではなく、今ある機械で何ができるかを考える。そういう考え方ですね。

奥谷:新しいものに飛びつくのではなく、今あるものを使い倒す。

峰田:そうです。壊れる寸前までというと大げさかもしれませんが、まだできることがあるなら使う。古い機械だからできないではなく、古い機械でどうやるかを考えるんです。

工場には、捨てないための技術がある

奥谷:工場を歩いていると、米富繊維の「ものを無駄にしない」姿勢も印象的でした。例えば、編み上がったものに直せない傷が出たときに、ほどいてもう一度編み直す工程がありましたよね。

峰田:はい。傷が出たものをそのまま捨てるのではなく、ほどいて戻すことがあります。もちろん素材によっては大変です。複数の素材が入っていると、一つひとつゆっくりほどかないといけません。
でも、ものを無駄にしないという意味では大事な工程です。別にお金を生む機械ではないんですが、そこには必要な役割がある。

奥谷:僕はあの機械に、すごく米富繊維らしさを感じました。速さや効率だけではない。傷を見つける、止める、戻す。そこにも工場の思想が出ている。

峰田:製造業で大事なのは、次の工程に傷を流さないことです。傷を流すと次の工程が止まってしまう。そこで効率も悪くなる。だから工程ごとにきちんと見ることが大切です。

奥谷:サンプルの資料室もすごかったです。あれは単なる保管場所ではなく、米富繊維の記憶そのものですね。

峰田:昔、サンプルを全部データ化しようとしたことがありました。その時点で、製品サンプルが6,500点くらい、編み地が2万点くらいありました。今は編み地だけでも25,000点くらいあると思います。
デザイナーさんが来られると、先に資料室に入ってしまうこともあります。そこには30年前、40年前の購入サンプルもあります。古いものでも捨ててしまったらそこで終わりですから。

奥谷:資料室というより源泉ですね。過去の蓄積があるから新しいものが出てくる。

峰田:そうですね。次の企画に入る時、ブランドのスタッフもそこからヒントを探します。昔のものをそのまま使うわけではありませんが、「これだ」と思うきっかけになることがあります。

ニットはもっと日常に近い服になれる

奥谷:ニットは好きだけれど、洗濯などのお手入れも含めて扱いが難しそうだと感じる人はまだ多いですよね。

峰田:それは本当にあります。店頭でも初めてのお客さまが「これニットなんですね」と知った瞬間に少し構えることがあります。クリーニングに出さないといけないんじゃないか、気を遣わないといけないんじゃないかと。
でも、商品によっては手洗いできるものもありますし、家庭でケアできるものもあります。もちろん製品表示上、言い方が難しい部分はありますが、ニットは必ずしも扱いが難しい服ではありません。

奥谷:ニットの基本をもう少し正しく伝える必要がありますね。素材も、編み方も、ケアの仕方も、知っていればもっと日常で着られる。

峰田:長く着られることと、ケアしやすいことは大事です。たとえばTシャツは着やすいですが、襟元が伸びると着なくなってしまうことがあります。ニットの場合、しっかりつくっていれば、何回洗っても形が保たれるものがあります。
ただ、良いことだけを言うのではなく、デメリットも伝えるべきだと思います。素材によっては白化することもある。それも特徴として理解してもらう。買った瞬間がピークではなく、着ていく中で変化していくことも含めて楽しんでもらえるといいですね。

奥谷:買った時が完成ではない。使っていく中で変化していく。そこも含めて伝えることが大切ですね。

峰田:はい。僕らは仕入れた商品を販売しているわけではありません。自分たちでつくって、責任を持って販売しています。だから、原料がどこから来て、染色はどこでして、どこで編んでいるかまで語ることができる。
それがお客さまの安心につながると思っています。

ベーシックほど手抜きできない

奥谷:MNMMSuper Normalがつくっている「日常を整えるニット」は、かなりベーシックなニットです。黒とオフホワイト。形もシンプルなクルーネックです。
一見すると特別なデザインではない。だからこそ、米富繊維の技術がどこに入っているのかを、きちんと伝えたいと思っています。

峰田:ベーシックなものは、手を抜くとすぐにバレます。
デザイナーズブランドのコレクションのように、誰が着るのかわからないくらい尖ったものもありますよね。そういうものには、そういう難しさがあります。でも、日常のためのニットは、また別の難しさがあります。
たとえばラグラン(注)でも、ラインがきれいなラグランと、そうでないラグランがあります。セットインでも同じです。ただ袖をつければいいわけではありません。腕を動かした時に窮屈ではないか。肩の収まりがきれいか。そういう部分は言葉で説明しにくいけれど、着るとわかります。
注:「ラグラン」とは襟ぐりから脇下に向かって斜めに切り替え線が入る袖の形。一般的な肩線で袖を付ける「セットインスリーブ」と違い、肩まわりに縫い目がないため、腕を動かしやすく、やわらかい印象になる

奥谷:普通の服ほど違和感が出ると目立つということですね。

峰田:そうです。昔は店頭でお客さまと直接会う機会が少なかったので、「どのみちわからないよ」と思えてしまう部分もあったかもしれません。でも今は違います。自社ブランドもありますし、Yonetomi ONLINE STOREもあります。お客さまの反応が直接返ってくる。
だから、ブランドの商品だから丁寧にやる、OEMだから手を抜く、ということはできません。お客さまはわかりますから。

奥谷:「日常を整えるニット」でも編み地をかなり詰めているという話がありました。

峰田:はい。「日常を整えるニット」のような商品は詰めることで長く着られるようになります。リブも、詰めないと伸び切って戻らなくなることがあります。
もちろん、すべての商品を詰めればいいわけではありません。軽さを出したい商品では、あえて詰めない方がいい場合もある。商品ごとに適正なやり方があります。
でも、今回求められているのは、日常の中で長く着られるニットです。そのために必要なことはやっています。

奥谷:ベーシックだからこそ米富繊維の“ふつう”が入っているわけですね。

峰田:そうですね。言い方は少し乱暴かもしれませんが、「任せてください」という感じです。

誰と作るかも商品に出る

奥谷:『ファッションは生活なり』を読んでもう一つ思ったのは、誰と作るかはすごく大事だということです。
ものづくりって、どうしても価格やロットの話になりがちです。もちろんそれも大事です。でも、僕らにとっては「どこで、誰と作るか」も、かなり大事です。
米富繊維の歴史を知ると、単に工場にお願いしているという感じではなくて、米富繊維が積み上げてきた考え方や文化の上で、「日常を整えるニット」をつくらせてもらっているんだなと思います。

峰田:ありがとうございます。新規のお取引のお話は今でもあります。ただ、ロットや条件が合わないと進められないことも多いです。
それに、僕らが今感じているのは「売る力」の大切さです。展示会でサンプルをつくって、最初は200枚いきますと言われても、2年後にはその取引自体がなくなってしまう。そういうことを何度も経験してきました。
瞬間的にオーダーが入れば、営業としては数字になります。でも、その先でお客さまが買ってくださらないと続きません。

奥谷:たくさん発注することよりも、お客さまとつながってコツコツ続けられることの方が大切だと。

峰田:そうです。今回のお話は今までとは角度が違うと感じました。大きく横に広げることや、縦に積むことだけを求めているわけではない。もちろん、結果的に受注が増えるのは嬉しいです。でも、それだけではありません。
一つひとつを大事にして、秋冬はこのニット、次の春夏はどんな素材でいくのか。そういうふうに焦らずリズムをつくっていけるといいと思っています。

奥谷:Super Normalとしてもまさにそこをやりたいです。売り切って終わりではなく、お客さまの反応を聞いて、次につなげていく。サマーニットもそうですし、Tシャツのように着られるニットも可能性があると思っています。

峰田:季節に合った適正な素材はあります。夏ならコットンもいいですし、和紙のような清涼感のある素材も面白い。お客さまの受け入れ方を見ながら、素材軸でキャッチボールできるといいですね。

毎年そこにある服へ

奥谷:アパレルは昨年対比で数字を見たり、季節やトレンドに左右されたりすることが多いですよね。でも、日常の服は本来もう少しゆっくり続いていいものだと思うんです。

峰田:ベーシックをつくるのは実はすごく大変です。手抜きできないし売るのも簡単ではありません。どういう素材でどういうふうにつくっているのか。きちんとコミュニケーションしないとなかなか伝わらない。
でも、一度気に入っていただけると戻ってきてくださるお客さまがいます。

奥谷:お客さまからすると、気に入ったものがワンシーズンでなくなってしまうのは困りますよね。また買いたいのに、もう売っていない。そういうことが多すぎる気がします。

峰田:毎年そこに行けば同じものがある。そこに少し色が増えている。そういう続け方は魅力だと思います。
もちろん在庫を抱えるのは簡単ではありません。物流費も上がっていますし、定番といって仕込みすぎると苦しくなることもあります。だからこそ、焦らずリズムをつくることが大事です。

峰田:1枚のセーターが年間で2ヶ月しか着られないよりも、半年くらい自然に着られる方がいいですよね。季節も変わってきていますし、ニットの可能性はもっとあると思います。

奥谷:服は朝選んだら一日一緒に過ごすものです。だからこそ、着ていて無理がないこと、迷わず手に取れること、少し気持ちが整うことが大事だと思っています。

峰田:「日常を整えるニット」という言葉は、すごくいいと思います。ちゃんとしたものを身につけると気持ちも整う。そういうことはあると思います。

奥谷:MNMMSuper Normalのニットが、お客さまの日常の中で、気づいたらよく着ている一枚になったら嬉しいです。そしてこれを一回きりで終わらせずに、米富繊維とご一緒に続けていけたらと思っています。

峰田:僕らも長く続く取り組みにしていきたいです。今回だけで終わるのではなく、お客さまの声を聞きながら次につなげていけたらと思います。